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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3599号 判決 1999年4月22日

東京都港区浜松町二丁目一番一六号

控訴人

博兼商事株式会社

右代表者代表取締役

古市守

右訴訟代理人弁護士

杉浦幸彦

右補佐人弁理士

後藤政喜

永井冬紀

松田嘉夫

長野県松本市芳川村井町字一里山八二三番地の二

被控訴人

長野コカ・コーラボトリング株式会社

右代表者代表取締役

稲垣孝二

右訴訟代理人弁護士

田中克郎

宮川美津子

中村勝彦

五十嵐敦

菊田行紘

大石篤史

加畑直之

小林卓泰

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人は、「ALWAYS」なる欧文字又は「オールウェイズ」なるカタカナ文字からなる標章について、これをコーラの缶に付し、又は右標章を付した缶入りコーラを販売若しくは販売のために展示してはならない。

被控訴人は、前項の標章を付したコーラの缶を廃棄せよ。

被控訴人は、控訴人に対し、一〇〇万円及び平成九年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決及び仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第二 事案の概要のとおりであるから、これを引用する。

(当審における控訴人の主張)

一  争点1について

1 原判決は、「コカ・コーラについては、従前様々なキャンペーンが実施され」たことを殊更問題にしている。しかし、ある標章が商標として使用されているかどうかについては、当該標章の使用態様を客観的に判断すべきであって、被控訴人が従前行っていた広告活動や目的は全く関係がないから、このようなことは、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記が商標として使用されていることの論証にはなり得ない。

2 原判決は、「ザ・コカ・コーラ・カンパニー」が「Always Coca-Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)キャンペーン」を「日本でも、毎年五〇億円を超える広告宣伝費を費やして広告宣伝活動が行われた」と認定した。しかし、右の広告宣伝活動の主体が「ザ・コカ・コーラ・カンパニー」であるとの認定を裏付ける証拠はなく、同社が本件欧文字表記や本件カタカナ表記が記載された缶を使用しているわけでも、そのような缶に入った清涼飲料を販売しているわけでもないから、なぜ、同社の宣伝活動が関連するかについても明確にされていない。

また、被告が広告宣伝費をいくら使ったということは、本件を判断する上で意味がない。

更に、毎年五〇億円を超える広告宣伝費を費やしたことや、その費用が「Always Coca-Cola」「キャンペーン」のために使用されたことを認定できる証拠はないし、広告宣伝の中に本件欧文字表記又は本件カタカナ表記が使用されたとしても、それは当該広告宣伝の僅か一部であり、当該広告宣伝が本件欧文字表記又は本件カタカナ表記に向けられた費用は僅かである。

3 原判決は、被告図柄一、同二を「Always Coca-Cola」の「キャッチフレーズ」が表記された図柄であると認定した。しかし、「Always」や「オールウェイズ」と「Coca-Cola」の表記は、同一態様で横一線に配置されているわけではないのであって、これを一体と見なければならない必然性はないし、「Always Coca-Cola」という語順で読むべき必然性はない。

4 原判決は、被告図柄一について、「缶の一か所に、ごく小さく、「Coca-Cola」という文字の上部に「ALWAYS」という文字が記載されて」いるにすぎないから、これ「に接した一般の取引者、需要者は、本件欧文字表記とコカ・コーラ商標とが一体の表記であるとの印象を受ける」と認定した。しかし、「ALWAYS」の表記は容易に判読できるし、同表記の背景は水色であって、他の部分が赤色であることも相まって、非常に目立つものであるから、「ALWAYS」の表記が「Coca-Cola」の表記と一体であるとみなすことはできない。また、原判快は、一般の取引者、需要者というけれども、一般の取引者、需要者の大多数を対象とすべきであるところ、本件の場合には、到底大多数の者がこのような印象を受けることはない。

5 原判決は、被告図柄二について、「カタカナ「オールウェイズ」、英語「Always」、スペイン語「Siempre」、ポーランド語「zawsze」、フランス語「Toujours」が小さく記載されて」いると指摘する。

統計をとってみれば、コカ・コーラの需要者のうち、「Always」の意味が分からない者はかなりの割合となるはずである。また、大多数の日本人は、スペイン語、ポーランド語やフランス語は全く判読できない。したがって、右の言語が表記されていることは、本件との関係では全く無意味である。

原判決は、被告図柄一の場合は、「ALWAYS」が一か所しか記載されていないことを表記の一体性を認定するための事実とする方、被告図柄二の場合は、「Always」に相当する語が複数箇所に表記されていることを表記の一体性を認定する理由としており、矛盾している。

ある標章が商標として使用されているかどうかについて判断するに当たっては、ほとんどすべての者が標章の意味を了解し、商標的使用ではないと判断することが必要であるというべきである。したがって、少なくとも、「Always Coca-Cola」の「キャッチフレーズ」が裁判所において立証が不要な程度に著名であり、裁判所にとって顕著な事実であることが必要である。

6 原告をザ・コカーコーラ・カンパニー、被告を控訴人とする審決取消請求事件において、ザ・コカーコーラ・カンパニーは、<1>「ALWAYS」なる標章を商標として使用する意図をもって商標登録出願をしたこと、<2>実際に商標として使用していること、<3>同社が使用する商標が本件登録商標と類似していることを認めた。本訴においては、同社が被控訴人に代わって手続を行っている(被控訴人代理人は、口頭弁論期日において、同社の指示を受けて本訴の訴訟手続を行っていることを認めている。)ことは明らかであるから、被控訴人が右審決取消請求事件における主張と矛盾するような主張をすることは信義則上許されないし、これと反する被控訴人の主張は信用することができない。

二  争点2について

1 被告図柄一について

(一) 「ALWAYS」の部分が「Coca-Cola」の部分に比して小さく表記されていることは事実であるが、「ALWAYS」と「Coca-Cola」とは、全く異なる表記態様により表記されている。したがって、「ALWAYS」の部分を独立した商標と解することには、何ら問題はない。

(二) 図柄と言葉は表現方法が異なるのであって、原則として図柄と言葉とが不可分一体と見られることはない。

(三) コカ・コーラ商標が著名であることは、図柄の要部とは無関係である。コカ・コーラ商標が著名であるからこそ、コカ・コーラの瓶の図柄と「Coca-Cola」なる筆記体の表記が不可分一体と見られるのであって、従前使用されていなかった「ALWAYS」は、これらとは一体と見られないということができる。

「ALWAYS」は実際に使用されている商品(清涼飲料)老密接に関連するとはいえないから、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、出所の特別標識となり得ると考えることができるのである。

(四) 缶の表面に記載してある標章の一つだけを商標としてとらえなければならない理由はない。そこで「中心的」でなくとも識別力を有する部分を商標としてみることに何らの問題があるとは考えられない。

2 原判決の判示内容が失当であることは、右1で述べたとおりである。原判決は、「Always Coca-Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」キャンペーンが長期にわたり大規模に行われていることも、被告図柄二と本件登録商標との類否を判断するに当たって考慮すべきであると判示した。しかし、そもそも、このようなキャンペーンが開始された時点で類似と判断された標章が、その後の商標法違反を構成する大規模な使用によって商標法上適法になるというのは、明らかに奇妙な議論である。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するところ、その理由は、次の一の項のとおり訂正し、二の項のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断と同じであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

二六頁三行目から四行目にかけての「その」を」「コカ・コーラの原液の」と改め、三一頁二行目の「特に」から四行目末尾までを削る。

二  当審における控訴人の主張に対する判断

1  争点1について

(一) 控訴人は、ある標章が商標として使用されているかどうかについては、当該標章の使用態様を客観的に判断すべきであって、被控訴人が従前行っていた広告活動や目的は全く関係がないと主張する。しかし、ある標章が商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているか否かについて、その標章が使用されるに至った経緯が全く関係がないということはできない。例えば、従前コカ・コーラについて様々なキャンペーンが実施され、各キャンペーン毎に、様々なキャッチフレーズが使用され、それを使用した広告宣伝活動が大規模に行われてきた以上、これらのキャンペーンとキャッチフレーズは一般顧客によって認識されているものと推認されるところ、右認識は、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記が商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているか否かを判断するに当たり、全く関係がないということはできないところである。したがって、控訴人の主張は失当である。

(二) 控訴人は、前記引用に係る原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断において、広告宣伝活動の主体が「ザ・コカ・コーラ・カンパニー」であると認定したことを前提として、これを裏付ける証拠はないと主張するけれども、右原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断においては、控訴人主張のような認定をしているわけではないから、控訴人の主張はその前提を欠くものである。

また、控訴人は、被控訴人が広告宣伝費をいくら使ったということは、本件を判断する上で意味がないと主張するけれども、多額の費用をかけた広告宣伝がキャンペーンとして一般の取引者、需要者に認識されないとは解されないから、これが意味がないということはできない。

更に、控訴人は、毎年五〇億円を超える広告宣伝費を費やしたことや、その費用が「Always Coca-Cola」「キャンペーン」のために使用されたことを認定できる証拠はないと主張するけれども、右事実は、前記引用に係る原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断一1の認定に用いた証拠により、優に認定できるところである。なお、控訴人は、当該広告宣伝が本件欧文字表記又は本件カタカナ表記に向けられた費用は僅かであると主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。

(三) 控訴人は、「Always」や「オールウェイズ」と「Coca-Cola」の表記は、同一態様で横一線に配置されている訳ではないから、これを一体と見なければならない必然性はないし、「Always Coca-Cola」という語順で読むべき必然性はない旨主張する。しかし、「Always」や「オールウェイズ」と「Coca-Cola」の表記は、同一態様で横一線に配置されていなければ、一体とみることができないとか、「Always Coca-Cola」という語順では読めないというものではない。

また、控訴人は、被告図柄一について、「ALWAYS」の表記は容易に判読できるし、同表記の背景は水色であって、他の部分が赤色であることも相まって、非常に目立つものであるから、「ALWAYS」の表記が「Coca-Cola」の表記と一体であるとみなすごとはできないと主張する。しかし、「ALWAYS」の表記が非常に目立つということはできないし、その表記が容易に判読できるとしても、そのことによって「ALWAYS」の表記が「Coca-Cola」の表記と一体とみることができないものではない。

そして、被告図柄一及び二の態様によれば、被告図柄一及び二に接した一般の取引者、需要者が、「本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とコカ・コーラ商標とが一体であるとの印象を受けることは、前記引用に係る原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断一1(三)の認定のとおりである。

(四) 控訴人は、本件の場合には、到底大多数の者が本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とコカ・コーラ商標とが一体であるとの印象を受けることはない旨主張する。しかし、控訴人のいう「大多数」がどの程度の割合をいうのか必ずしも明らかではないけれども、一般の取引者、需要者が本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とコカ・コーラ商標とが一体であるとの印象を受ける以上、これらが一体的に記載されているというべきものである。

(五) 控訴人は、統計をとってみれば、コカ・コーラの需要者のうち、「Always」の意味が分からない者はかなりの割合となるはずであると主張する。控訴人の主張するかなりの割合とは、どの程度をいうのか明らかではないけれども、我が国においては、義務教育である中学校教育において英語が必修とされていることは当裁判所に顕著な事実であるところ、乙第一六号証の一、二、第一七、第一八号証によれば、コカ・ユーラの需要者は、高校生以上の者がその約九〇パーセント以上を占めていること及び「Always」は中学程度において学習される英語であることが認められるから、コカ・コーラの一般顧客は、「Always」の発音及び意味を知っていると認めることができ、したがって、「Always」ないし「オールウェイズ」が「常に、いつでも」を意味することは、コカ・コーラの一般顧客に知られているものと認めることができるところである。

控訴人は、原判決は、被告図柄一の場合は、「ALWAYS」が一か所しか記載されていないことを表記の一体性を認定するための事実とする一方、被告図柄二の場合は、「Always」に相当する語が複数箇所に表記されていることを表記の一体性を認定する理由としており、矛盾していると主張する。しかし、「ALWAYS」や「Always」ないしこれに相当する語の記載の個数の違いによって、一体の表記であるとの印象を受けるか否かの判断が異ならなければならないものではない。そして、原判決は、被告図柄一、二に接した一般の取引者、需要者が、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記とコカ・コーラ商標とが一体の表記であるとの印象を受けると認定判断するに当たり、単なる「ALWAYS」や「Always」ないしこれに相当する語の記載の個数ではなく、被告図柄一、二の態様を根拠としているのであるから、右各認定は矛盾するものではない。

更に、控訴人は、ある標章が商標として使用されているかどうかについて判断するに当たっては、ほとんどすべての者が標章の意味を了解し、商標的使用ではないと判断することが必要であるというべきであるから、少なくとも、「Always Coca-Cola」の「キャッチフレーズ」が裁判所において立証が不要な程度に著名であり、裁判所にとって顕著な事実であることが必要である旨主張する。しかし、商標として使用されているものではないことの立証について、これが裁判所に顕著な事実に限られるということはできないし、また、右キャッチフレーズが裁判所にとって顕著な事実であることが必要であるというものでもないから、控訴人の主張は失当である。

(六) 控訴人は、原告をザ・コカーコーラ・カンパニー、被告を控訴人とする審決取消請求事件において、ザ・コカーコーラ・カンパニーは、<1>「ALWAYS」なる標章を商標として使用する意図をもって商標登録出願をしたこと、<2>実際に商標として使用していること<3>同社が使用する商標が本件登録商標と類似していることを認めたから、被控訴人がこれと矛盾する主張をすることは信義則上許されないと主張する。しかし、ザ・コカーコーラ・カンパニーと控訴人は別の法人であり、しかも、ある標章が商標として使用されているか否か、また、登録商標と類似しているか否かは、当該事件の事実関係に即して具体的に判断すべきものであるから、審決取消訴訟におけるザ・コカーコーラ・カンパニーの右主張により、直ちにこれに反する被控訴人の主張が信義則上許されないということはできない。なお、本訴において、ザ・コカーコーラ・カンパニーが被控訴人に代わって手続を行っていることについても、被控訴人代理人が口頭弁論期日において、ザ・コカーコーラ・カンパニーの指示を受けて本訴の訴訟手続を行っていることを認めていることについても、これを認めるに足りる証拠はない。

したがって、控訴人の主張は、失当である。

2  争点2について

(一) 控訴人は、<1>「ALWAYS」と「Coca-Cola」とは、全く異なる表記態様により表記されている、<2>図柄と言葉は表現方法が異なるのであって、原則として図柄と言葉とが不可分一体と見られることはないと主張する。しかし、「ALWAYS」が活字体であり、「Coca-Cola」が筆記体であること及び円弧の中央にコカ・コーラのボトルの図柄が描かれていることを考慮しても、被告図柄一が、全体として一体のマークとしての印象を一般の取引者、需要者に強く与えるデザインであることは前記引用に係る原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断二1の認定のとおりである。なお、控訴人は、コカ・コーラ商標が著名であることは図柄の要部とは無関係であると主張するけれども、図柄の要部を認定するに当たって、その一部に記載されている商標が著名であることが無関係ということはできないから、控訴人の主張は失当というほかはない。

更に、控訴人は、「ALWAYS」は実際に使用されている商品(清涼飲料)と密接に関連するとはいえないから、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、出所の特別標識となり得ると考えることができ、「中心的」でなくとも識別力を有する部分を商標としてみることに何らの問題があるとは考えられないと主張するけれども、抽象的な理論的可能性の有無はともかくとして、本件においては、被告図柄一のうち、我が国の一般的な取引者、需要者の注意を惹いて中心的な識別力を有する要部は、「Coca-Cola」の部分であると解すべきことは、前記引用に係る原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断二1の認定のとおりであるから、控訴人の主張は、採用することができない。

(二) 控訴人は、「Always Coca-Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」キャンペーンが長期にわたり大規模に行われていることを被告図柄二と本件登録商標との類否を判断するに当たって考慮することは、右キャンペーンが開始された時点で類似と判断された標章が、その後の商標法違反を構成する大規模な使用によって商標法上適法になるということになり奇妙である旨主張する。しかし、右キャンペーンが開始された時点では、使用されていたのは被告図柄一であって、被告図柄二ではないから、被告図柄二と本件登録商標との類否を判断するに当たって被告図柄二の使用開始より前に行われた右キャンペーンを考慮することは当然である。したがって、控訴人の主張は採用することができない。なお、当裁判所は、右キャンペーンが開始された時点で被告図柄二と本件登録商標が類似であったと判断しているものではないから、控訴人の主張は、この点でも前提を欠き、採用することができないものである。

第四  結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成一一年三月一八日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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